千葉県・海浜幕張眼科御中  江畑理佳様

                2011.5.8    ユーザー本位の眼鏡処方を推進する会   岡本隆博

   貴殿が掲出しておられるネットサイトに、眼鏡の処方について解説した記事があります。
   http://www.jutoku.com/ganka/knowledge/glasses/glasses_13.html(2011.5.8現在)
   全国の眼鏡処方技術者に対する教育ということで、この記事をお書きになった先生(貴殿ご自身か、
   貴殿のクリニックの検査員のかたか、どちらかだと思います)には敬意を表しますが、この記述内容について、
   一部疑問を感じる点がありますので、ここに質問をさせていただきます。
   なお、《   》内は、当該記事から原文のまま引用したものです。

   (1)《近視の検査》のところに、《きちんと雲霧法で検査し》としてありますが、自覚的に左右各眼別の
      屈折値(SとCの度数)と視力を見る、いわゆる各眼鏡別の完全矯正は、片眼遮蔽(他眼遮蔽)での検査だけで、
      日常の両眼視の状態(眼鏡を使うのはその状態です)で各眼別の屈折検査をする「両眼開放屈折検査」は
      なさらないのでしょうか。
      (1)−1 両眼開放屈折検査をなさるのでしたら、なぜそのことに触れておられないのかということについて、
            お尋ねします。
      (1)−2 両眼開放屈折検査をなさらないのでしたら、なぜその検査を省略されるのかをお尋ねします。

   (2)《近視・乱視とも完全矯正値の半分を目安とする。》としてありますが、近視の度数が相当に弱い場合以外では、
      そういう処方をされた眼鏡での遠見の矯正視力が0.5にも遠く届かなかったりして、ほとんど使い物にならない
      近視矯正の眼鏡になってしまうのではないでしょうか。

   (3)そのあとに《運転用は免許更新に両眼0.7以上必要ですが夜間は虹彩の絞り効果が無くなりますので
      若干視力低下します。両眼視力を0.8〜0.9は確保した方がよろしいでしょう。》としてありますが、
      夜間に高速道路などの遠くの文字表示をちゃんと読むためには、明るい検査室で1.2の視力が出る度数でも、
      まだ足りない場合があります。《0.8〜0.9程度》の両眼視力では、まったく不十分で使いにくくて
      不満を感じざるを得ないメガネとなる蓋然性が非常に高いと思いますが、いかがでしょうか。

   (4)《 近視眼の場合  弱くする度数 S-1.00前後の近視は-0.25下げる。
          S-2.00前後の近視は-0.50〜-0.75下げる。
          S-3.00前後の近視は-1.00下げる。
          S-4.00以上の近視は半分まで弱める。を原則とします。》
      としてありますが、こういう「原則」はほとんど無意味です。
      なぜなら、その人の前眼鏡の度数や新眼鏡の用途や必要視力などによって、新眼鏡の処方値を
      どうするかというのは、まったくさまざまで、こういう「原則」はじゃまになりこそすれ、
      何ら処方値決定の際のベースになりえないものと、私は断定したいのですが、いかがでしょうか。

  (5)《そして、左右の度数差はなるべくS-0.75以下にします。》としてありますが、これも同様に、
     無意味な記述でしょう。たとえば、前眼鏡で左右の度数差が1.50Dあって、
     それで問題なく使えていたのに、わざわざそれを左右差0.75Dにするなんて、
     そんなことはおよそ荒唐無稽と言わざるを得ません。いかがでしょうか。

  (6)《又、不同視眼でない人は、左右同度だけ減じるようにし、減らし方は度の強い眼を基準に行います。》
     それはあくまでも、片眼遮蔽による屈折検査の各眼別の完全矯正度数から、左右同じだけ引く、
     ということですね。
     それから《その後視力を確認し、両眼のバランスをとり、装用感を聞き決定します。》とのことですが、
     両眼バランステストは、交互遮蔽で行なうのでしょうか、それとも、偏光視標などを利用した、
     両眼開放による両眼バランステストを行なうのでしょうか。
     もし、前者であれば、なぜ後者にされないのかをお尋ねします。

  (7)《(例1)完全矯正 R:S-3.00D L:S-2.50Dの場合は、右眼S-1.25減らして左右同じだけ減らす
     【決定度】 R:S-1.75Dに L:S-1.25D とします。》
     としてありますが、この例もほとんど無意味であり、誤解を招くだけのように思います。
     だって、前眼鏡の度数や、新眼鏡の用途などにより、完全矯正よりもどれだけ弱めて処方するかということは、
     様々であり(完全矯正のままでないとダメな場合もありますよね)、こんな例は、どういう場合にこうするのか
     という説明がない以上、何の参考にもならないと思いますが、いかがでしょうか。

  (8)《不同視眼の場合  完全矯正値を検出した後、不同視眼の弱度の眼を基準に、上記の近視度数調整の
     目安を参考に決め、強度の方は弱度よりS士0.75D〜S士1.00Dの差を限度とします。》としてありますが、
     これもおかしいです。このあたりは、前眼鏡の度数により、まったく事情は変わってきます。
     メガネが初めての場合であれば、この説明でもまあよいのでしょうが、これがメガネが初めての人の場合の
     説明であるとはどこにも書いてありません。それの書き忘れでしょうか?

  (9)《ただし、左右差がS士3.00以上不同視眼の場合は、弱度の眼を基準にし、両眼の屈折度の差の半分を
     強度の眼に与えます。このような目安で行ない異和感(評者註:「違和感」が正しい)のある場合は、
     強度の度数を弱くして両眼の度数差を少なくします。》とのことですが、これでは左右差が
     1.50〜2.75D程度の場合には、どうすればよいかが、わかりません。
     なぜそういう左右差の場合については説明がないのでしょうか。

  (10)必ず最後に、片眼各々の視力の確認と両眼視力の確認及び装用感を充分チェックします。
      眼鏡の2度目の取り替えは、遅くとも半年後に変えるようにして、早い時期に両眼視の
      機会を与えることです。》    これも、この終わりの部分の記述が変です。
      たとえば、完全矯正が、R=−1.50D L=−3.50D の眼で、眼位に問題がなくこの度数で
      両眼融像がちゃんとなされており、どちらも健常視力が出ている場合に、
      実用眼鏡での違和感を減らすために、Rを0.25D分低矯正、Lを1.50D分低矯正とした
      処方眼鏡を使用したとして、その程度のメガネなら、両眼での融像視はもちろん問題なくあるし、
      立体視も、完全でなくともかなり機能しています。
      ですので、《早い時期に両眼視野の機会を与えること》というのは、おかしいです。
      そのように書いたのでは、低矯正の方が完全に抑制しているかのように受け取られても
      しかたがないでしょう。そう思われませんでしょうか。

  (11)《(例1)完全矯正 R:S-1.25D L:S-3.50D
       1 / 右眼の弱度眼を基準にして、原則表から、S-0.50D減らして R:S-0.75Dにします。
       2 / 強度眼は弱度よりS-1.00Dの差を限度とし L:S-1.75Dにします。
       3 / やや見づらいということであれば R:S-1.00にします。
       4 / 左眼は、その差-1.00Dとし L:S-2.00とします。
       5 / 視力的には問題が無いが、異和感があるということであれば 左眼をS-0.25D減らします。
       【決定度】 R:S-0.50  L:S-1.75》

     という例がありますが、初めてのメガネでの場合の説明ですね。それで、どんな年齢の装用者で、
     どういう用途に用いるメガネなのでしょうか。
     それとも、それらがどうであれ、初めてのメガネなら、この方法で度数を決めたらよいということでしょうか。

  (12)《この例のように不同視眼は、出来るだけ早いうちに取り替えて、完全矯正眼鏡を装用ようにする事が
      大切です。》とは、一概に言えませんよね。だって、不同視眼の場合、老視以前の人でも、
      強度側眼の調節力が弱度側眼よりも弱めで、強度側眼をより多めに低矯正することにより、
      近業をしやすくする場合がよくありますから。貴殿もそうは思われないでしょうか。
      (このあとで述べてある近用加入度の求めかたは老視眼の場合ですよね)

  (13)《不同視眼の近用度数決定方法は、まず遠用完全矯正した後、右左別々に近用加入度数を求める。》
      その場合に、他眼遮蔽で各眼の近用加入度を求めるのと、両眼開放で各眼の加入度を求めるのとでは、
      後者の方が、より現実的であり、そうすべきであると私は言いたいのですが、
      貴殿はどちらの方法を実施なさっているのでしょうか。

  (14)《練習問題》のところに  
      《左右の視力は、やや左眼がベターと思われますが、装用感の関係上バランスを取りました。
      ここで、問題がなければ、左眼をS-0.25にしても問題ありません。(利き目を優先させること)以上
      原則を記しました。》としてあります。ここにおける「利き目」というのは、どういう意味(定義)なのでしょうか。

  (15)《しかし人間の体や視力は これで割り切れるものではありません。仕事内容や使う環境、
      患者さんの性格まで考慮して検査し、快適なメガネを作って上げてください。》
      この場合、非常に重要な要素がひとつ抜けています。「前眼鏡の度数」を大いに
      考慮にいれないといけません。それについての配慮なくして、快適な眼鏡処方は到底無理である
      と言っても過言ではありません。貴殿は、そうは思われないでしょうか。

  (16)《装用テストで気分が悪いと訴えた患者さんには適宜下げていきます。)中高年者は老眼が出てきて
      あまり遠くにピントを合わせると近用が辛くなります。よく説明してあげて近用眼鏡を別に作るか
      遠近両用にするかアドバイスしましょう。》としてありますが、これは当然過ぎることです。
      これは眼科の処方初心者にあてた記述ですね。
      全国の眼科では、こういう注意を必要とする初心者が実際に眼鏡処方に携わっているのですね。
   
  (17)《中高年者は正視の場合30代から遠視になります。》としてありますが、私の経験では近業が多い人は、
      30を過ぎてからでも近視になる人が少なくありません。
      《正視の場合30代から遠視》という説明には、何かデータがあるのでしょうか。

  (18)《遠視は限りなく完全矯正にします》とのことですが、5m完全矯正と、
      無限遠完全矯正は違う度数になることが往々にしてあります。基本は、どちらに合わせるのでしょうか。

  (19)《乱視の検査 手持ちクロストシリンダーで検査します。
      流れは球面を-0.50過矯正にして乱視度数→乱視軸→乱視度数の順で検査します。》としてありますが、
      この場合の《球面を−0.50過矯正》というのは、Cお入れない状態で、R=Gになる球面度数よりも、
      0.50D過矯正に、という意味なのか、それとも、オートレフで得たSとCの値から、
      CはそのままでSを過矯正にするのか、それとも、別の意味なのか、まったく不明です。
      わかりやすいご説明をお願いできませんでしょうか。

  (20)上記の件に関して言えば、クロスシリンダーで乱視を測るときには、最小錯乱円を網膜にできるだけ近づけた
      状態なのですが、(それは、日本眼鏡学会の雑誌(2010.Vol.13)に掲載されたの最近の研究
      『不適切な等価球面度数下で測定したクロスシリンダー法の精度』(片山愛子ほか)により検証されています)、
      貴殿は、そうではなく、0.50D過矯正がよいとのことですが、その根拠をお尋ねします。

  (21)《弱度乱視の場合は -0.25を上げ下げするだけで視力が大きく変わります。》とのことですが、
      では、たとえば、0.50Dの乱視を0.25D落とした場合と、1.25Dの乱視を0.25D落とした場合とで、
      視力の低下の度合いが違うとおっしゃるのですか。残余乱視が同じである以上、それによる視力低下は
      基本的に変わらないはずですが、上記引用のお説についてのデータなり根拠なりが何かあるのでしょうか。

  (22)《(乱視を)神経質な患者さんはカットしますが良く見たいと訴える患者さんには乱視矯正をします。》
      とのことですが、神経質であるがゆえに、乱視をカットしたり低矯正すると、ぼやけを訴えて
      受け付けないかたもいます。
      この記述における《神経質》というのは、空間視の違和感に対する神経質さのことですね?

  (23)《最近はオートレフの性能が良くなって便利ですがあくまでも「目安」としてください。
      検査結果が過矯正に出たり乱視が逆軸に出る事はタビタビあります。真っ新な状態から患者さんの自覚で
      度数を捜すという気持ちで検査を進めます。》ということですが、たとえば前眼鏡に強い乱視が入っていて、
      それによる矯正視力が1.0以上出ており、オ−トレフでも同様の乱視が出た、という場合においても、
      自覚的屈折検査は、裸眼視力を見たあとで、その乱視を入れなくて球面度数だけ入った状態から
      スタートするべきなのでしょうか。

  (24)《遠近両用の検査ポイント》のところに、《調節力を調べ、目的用途・目的距離・目的作業を確認します。
      40代は必要加入度の2/3を50代は必要加入度の4/5を入れて》としてありますが、
      その場合の「必要加入度」というのは、目的距離を見せて、どのようにして測定して得た加入度なのですか。

  (25)上記の場合、もしも、目的距離を見るための最低限必要な加入度を単焦点のテストレンズで得て、
      そこからまだ割り引いた加入度を与えるというのなら、視線がなかなか近見ポイントまでは降りにくいのが
      普通であるところの遠近累進メガネでは、加入度が不足して近見で目的距離のものを明視するのが
      難しくなるはずですが、いかがでしょうか。

  (26)《(遠近両用の《装用試験(近視の方には 遠用度は完全矯正値に出来るだけ近づけて、遠視の方には 
      遠用度は心持ち弱めにします。)》としてありますが、遠用度数をそのように設定すると、
      近用度数が同じとすれば余分な加入度を必要とし、ぞうのゆれ歪みが増えることになりますが、
      本当にこの方法が妥当なのでしょうか。そうであれば、その理由をお尋ねします。

  (27)《目的に合わせた累進の長さを選択します。累進帯の13mmなどは回旋が楽になりますが揺れが
      目立ってきます。各社とも随分改良されて大きな不可はありません。》とのことですが、
      最近では13mmでも短いとは言えないのですが、そのへんの状況は把握しておられるのでしょうか。

  (28)それと、累進部の長さの表示は14mm、12mmなどの偶数系列のものが多いし、また、
      内面累進か外面累進か、ということで、同じ長さでもその見え方は変わってきます。
      ですので、そのあとに《これは良いとかこれは使えないなどのご意見がございましたらご連絡下さいませ。》と
      書いておられますが、そういう断片的な感想を聞いても、たまたまその人にはそれが良かったというだけの
      ことですから、一般化は無理です。


  私は、眼科では、あくまでも完全矯正値を参考までに示すにとどめ、処方度数はメガネ店にまかせるのがよいと
  言っています。そうしないと、処方箋のとおりに作ったのに見え方に納得がいかないという場合、
  眼科では対応に困りませんか?
                         *下記を参考までにご覧くだされば幸いです。

            ユーザー本位の眼鏡処方を推進する会 http://www.ggm.jp/ugs/

  (29)《遠近両用加工時のポイント》のところに《フレーム選択後、遠用アイポイントをプロットし近用アイポイントは
      ミラー法にて決定します。(顎を出し気味に見る方・斜め気味に見る方など特徴を観察します。
      鼻骨もまっすぐではないし、PDも左右同じではありません。)一般的にはプロットしたポイントより0.5mm外目に、
      そして0.5mm下目に合わせて枠入れします。(外側&下側と覚えてください)》としてあります。
      この「ずらし」はすべての遠近累進レンズに適用すべきなのですか。そして、そうであってもなくても、
      その根拠についてお尋ねします。

  (30)上記(29)の「ずらし」のような、その分野において広く周知された事柄ではないことを書かれる場合には、
      それについての根拠や研究などを示しておかれるべきだと私は思うのですが、
      貴殿はそうは思われないのでしょうか。

  (31)筋性眼精疲労らしき症状を訴える人だけでなく、通常の眼鏡処方のための検査においても、
      ちゃんとした眼鏡店なら、S・C・Axとその視力、そして調節力を検査する「屈折検査」の他に、
      いわゆる両眼視機能検査、たとえば、眼位(斜位)の検査なども必ず実施するものですが、
      この貴殿の説明においては、そのことに触れられていません。

      たとえば、不同視の場合にはそうでない眼よりも上斜位を有することが多いものですが、
      貴院においては、眼鏡処方の場合に、眼位の検査は普通は行なっておられないのでしょうか。