寝 亀 と 王 様
芽我根掛代


寝 亀 と 王 様

ワンス、アンポンタンなタイム。
小さな島国、ニコポン王国でのお話です。

近頃この国では高齢化社会になって、
足腰の弱い人が増えて、
自力で歩けない人も大勢いました。

あるとき、寝亀という新種の亀が外国から輸入されました。
この亀は普段は寝てばかりいるのですが、二匹並べて
人間がその上に足を載せると、パッと目覚めて、
人がゆっくり歩く程度の速さで進んでくれるという、
たいへんけっこうな特長を持っていました。
いわば、生きているセグウェイ、とでも言いましょうか。

それで、その寝亀を売る店が全国にできて
どこも大繁盛でした。

ところが、寝亀に乗って歩く人が、こけてしまうという
事故がときどき起こりました。

調べてみると、足の裏のカーブと寝亀の甲羅の
カーブの合致度が悪い人の場合に
ころびやすくなるということがわかりました。

そして、寝亀の甲羅から分泌される化学物質に
よって、人によっては、アレルギー症状が出て足の裏に
湿疹ができるということもわかりました。

●

そこで王様は、
「寝亀が欲しい人は、以後、医師の診断により、
寝亀の甲羅から出る化学物質に耐性があるかどうかを
診てもらって、それがOKとなれば、
足の裏のカーブの数値を書いた処方箋を発行してもらい、
その処方箋がない人は、寝亀は購入できないことにする。
寝亀屋は、そのカーブに合う甲羅を持つ寝亀を
販売するように。これは国民のためである」
とのおふれを出しました。


寝亀屋たちは、

そんな事故はさほど頻繁に起こるわけではないし、
その湿疹も水虫みたいなもので、そのマイナスと寝亀の便利さを
はかりにかけて、
寝亀の使用をやめるかどうかを
自分で決めればよいことだ。
それと、そういう制度にしたら医院がよけいに混むし、
医療費もますます増える、

という理由で、そのおふれには賛成したくなかったのですが、
王様が言うことには誰も逆らえません。

そして、それ以後、寝亀に乗っていて転倒する人や、
足に湿疹ができる人が減ったのかどうかは、
よくわかりませんでした。

しかし、町の医院は、どこも患者が増えて喜びました。
でも健康保険財政は、いっそう苦しくなりました。

●

王様も、寄る年波には勝てず、
近頃はどこへ行くにも寝亀を利用していました。
ある日、巷の状況を視察するために
おしのびで侍従と一緒に、粗末なかっこうをして
寝亀に乗って王宮から町へ出てみました。

首都の表通りを歩いていると、横丁から突然小さい子どもが
走ってきて、王様のすぐ前を横切ろうとしました。
それを避けようとした王様は、スッテンコロリ。
その拍子に寝亀は押しつぶされて死んでしまいました。

侍従がさっそく予備の寝亀を荷物の中から
取り出しましたが、エサのやり忘れで、
その寝亀も死んでいました。

「おい、どこか近くに寝亀屋はないのか」
「では、探してみます」
その日は日曜日でしたので医院はどこも休みでしたが、
寝亀屋は開店していました。

●

王様は侍従に手を貸してもらって
少し自力で歩いて、寝亀屋にたどりつきました。

「おい、寝亀を売ってくれ」
「処方箋はお持ちでしょうか」
「何を言う!ワシは王様だぞ」
「フフ、王様がそんなみすぼらしいかっこうを
しておられるなんて……(^^)」
「……困ったな、ワシは王様だから身分証明書なんて
持っていないし……。
処方箋なんて、そう硬いことを言うなよ。
値段は高くても、一番丈夫な寝亀がよいな。
代金は現金で今すぐに払うから」
「いいえ、申し訳ありませんが、ダメです。
『医師の処方箋なしでは寝亀を売るべからず』
という王様のおふれを守らないと、
私どもは牢屋に入ることになりますので」
●

「う〜ん……、憎たらしいやつだ。
覚えておれ!あとで警察官を派遣して
おまえを捕らまえて、牢に入れてやるから!」

王様は侍従の手を借りてトボトボと王宮に
帰っていきました。
その後姿を見ながら寝亀屋はつぶやきました。

「このごろアルツハイマーの老人が増えてきたなあ。
そもそも、ニコポン人は、寿命が長くなりすぎたんだ。
長生きはよいが、いつまでも体も脳も元気でないと……。
僕ももうすぐ還暦だから気をつけなくっちゃ。
まあ、僕の場合は自営業で定年がないから、
常に頭と体を使っているので、ぼけは来にくいと思うけれど。
それに僕は、足腰を鍛えるために、スクワットを
毎日100回やっているから、まったく元気だ。
王様は、スクワットを国民に義務つけたらいいんだ。
『これで国民をすくおっと……、なあんちゃって(^^)」

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