この措置を実行した場合のメリット

眼鏡店でもできる眼鏡処方が眼科では行なわないという措置に踏み切れば、
次のようなメリットが出てきます。

(1)ユーザーのメリット

眼科の眼鏡処方箋のとおりに作ったメガネでうまくいかないときに、どこが責任を持って
対処してくれるのかということをユーザーが悩むということがなくなります。
最近多い累進眼鏡(遠近・中近・近近)の処方も、眼鏡店でなら、
テストレンズで確認しながらレンズの種類や度数を選ぶことができます。

また、白内障術後で眼内レンズの位置ズレによって人工的な上下斜位が生じて目の
疲れが生じたりモノが二つ見えるということで困っているかたがおられますが、
ほとんどの眼科では斜位の矯正は不得手なので的確な対処ができません。
眼鏡店でも全ての店がそれをできるわけではありませんが、
眼科よりも可能性はずっと高いと言えます。

また、眼科が眼鏡店でもできる眼鏡処方をやめれば、あとで眼科へメガネの度数に
関して苦情が来て困るといったことがないので指定店を強く推す必要がなくなります。
そうすると、ユーザーも眼科に気兼ねせずに好きな店に行くことができます。
(指定店を強く推すと、痛くもない腹を探られることもあります)
ただし、患者さんの方から技術のよいメガネ店のを紹介依頼があれば、
それには具体的に答えてあげることは、たいへんよいことだと言えるでしょう。

また、安売りで粗製濫造の眼鏡店が、自店で調製度数を測定する手間をはぶくために
「眼科の眼鏡処方箋歓迎」と打ち出すことがあります。
すべての眼科の眼鏡処方箋の処方度数が快適な視覚をもたらすものであれば
それでも良いのですが、現実はそうではありません。

また、度数に問題はなくとも、加工やフィティングのまずさ、レンズの種類の不適合などで、
見え方に問題が出てくることもあります。そうすると、眼科の処方箋でそういう店でメガネを
作った場合、ユーザーが見え方で苦情を店に言っても、「そのうち慣れますよ」と言われて
おしまいとなって、自店での測定で処方をしなおして無料サービスでレンズを入れ替える
なんて良心的で面倒なことはできないのが、ほとんどの安売り量販店です。
眼科の眼鏡処方箋は、結果としてそういう店の測定処方の手間を省くのを助けている
場合もあるのです。もちろん、眼科にその意図はないでしょうけれど。


(2)眼科のメリット

眼鏡処方を眼科が眼鏡店に委ねることにしてしまえば、眼科はわずらわしい眼鏡処方から
解放され、眼科医療の本来の目的である眼疾患の診断や治療に専念することができる
ようになります。もともと経済的な利得もほとんどなく、苦情が来たら手間がかかって
困惑するだけといった、「不本意な仕事」とも言うべき眼鏡処方から眼科が解放されることは、
どんなに気分がスッキリすることでしょうか。

 眼鏡店で測って作ったメガネの度数を選んだのはユーザーと眼鏡技術者ですから、
それに関する責任はユーザーと眼鏡技術者の共同責任となります。

なお、眼科へ来られた眼鏡ユーザーの人には「あなたの眼に対する眼鏡処方は
医療ではないので、どこかの眼鏡店で測ってもらって相談して作ってください」と
言えばよいわけです。それでもしも、「技術のよい店を知らないので教えてください」と
ユーザーが言えば、それを紹介するのは良いことでしょう。

例えば、遠用と近用を別々に度数を処方した眼鏡処方箋で、遠近累進を作ったユーザーが
「見え具合が悪いのでメガネ店に行ったら、『処方箋のとおりに作っています。
眼科で相談してください』と言われたので、来ました」と言って眼科へ来たら、困惑します。
メガネを調べても、何がどう悪いのかが、なかなかわかりません。

こういう場合、眼科が処方さえしなければ、眼鏡店が「眼科に行ってください」と言って
責任を回避することができなくなるのです。

万一、その眼科が処方したものでなくて、よそで測ってよそで作ったメガネの不調についての
相談があれば、わかる範囲でアドバイスすればそれでいいわけです。

また、眼鏡処方を求めて眼科へ来た患者さんには、もちろん、通常と替わらない診察すれば
いいわけです。問診や各種病理検査と屈折検査までを行なって、眼鏡適用であると判断すれば、
そこから先は眼鏡店での度数選定に委ねればいいのです

そこからさらに眼鏡処方をしても、手間がかかるだけで
保険点数はほとんど同じはずです。

自院を信頼して来てくれた患者さんには自院の技術で正確な眼鏡処方をしてあげたいという
気持ちも、わからないではありませんが、いろいろ考え合わせると、眼鏡の度数の選定まで
しないのが賢明だと言えるのではないでしょうか。

また、眼科が親しい指定店や、眼科と同じ屋根の下に併設眼鏡店を持っている場合にも、
やはり眼科では処方しないのが賢明であり得策なのです。
眼鏡処方は、その眼科の指定店でも併設店でも、他店でも、どこでもいいのですが、
とにかく眼鏡店で行なえば、眼科は困ることがなくなります。

眼科で処方して指定店や併設眼鏡店を推薦して、ユーザーがそこへ行けば、
あとで苦情がきてレンズ入れ替えになったとにきは指定店や併設店の負担ですませられるので
助かるのですが、眼鏡処方を受けた誰もが指定店や併設店へ行くとは限りません。
(およそ半数は指定店以外へ行くようです) 
そうすると結果として他店調製のものでの見え方に苦情がきて眼科が困惑するということは、
やはり起り得るのです。

そして、ユーザーは眼科へは苦情を言いにくいので、眼鏡店に相談を掛けて眼鏡店で測定処方をして、
眼鏡店の負担でレンズ無料入れ替えをしているというケースが、ままあります。

 実際のところ、眼科処方で作ったメガネで見え方に問題が出た場合、ユーザーは医師がいる
眼科へ苦情を言いに行くよりも、眼鏡を作った眼鏡店に相談をし、眼鏡店で内々にレンズ替えなどで
対応処理しているケースの方がずっと多いものです。そういうことで眼科まで来る人のほとんどは、
メガネ店へ相談を掛けても「ウチは処方箋通り作っただけです」と言われて、
しかたなしに眼科へ来るというわけです。

 眼科が眼鏡処方をしなければ、そういうことで眼鏡店に迷惑をかけることもなくなります。

眼鏡店で、現在眼科にはかかっていないお客さんに眼鏡処方のための視力検査をしているとします。
相当の年輩の人で仮に矯正視力が0.8までしか出ないものとします。
そして特に眼が痛いとかモノが歪んで見えるというような自覚症状はないとします。

そして、普通に測った近用眼鏡で装用テストを行なったら、それでよく見えるという答が返って
きたとします。そうすると、その場合に、眼科での検査や治療が必要な眼かどうか、
眼科受診を薦めるべきかどうか、というのは微妙な判断になってきます。

それが例えば眼科の併設眼鏡店であったり、自店を指定してくれる眼科があったりすれば、
その眼科への受診をすすめればいいわけですが、そういう眼科を持たない眼鏡店であれば、
うっかり眼科受診を薦めると、そこの眼科で処方箋を書かれて指定の眼鏡店に行ってしまわれる
かもしれないという心配が頭をかすめます。だから、そういう場合に、眼科が眼鏡処方をしない
(当然、眼科の方からは指定店の紹介をしない)のであれば、眼鏡店としては、
どこでもいいですから眼科へ行って診てもらわれたらいかがでしょうか、と言いやすくなります。

眼鏡処方を眼科がしなくなることにより、指定眼科を持たない眼鏡店は眼科受診を薦めやすく
なるといことも、状況によっては十分にあり得ます。
(ただし、各地域の事情によってはこのことは一概にはいえません)
ある眼科では、眼鏡店からの紹介の患者さんにだけは眼鏡処方箋は発行せずに、
診断の結果報告を持たせて患者さんをその店に返すそうです。

そういう方式を、全国どこの眼科でも取り入れてほしいと思いますし、一歩進めて、
眼鏡店で出来そうな眼鏡処方であれば、どの患者さんにも処方箋は書かないという方式に
切り替えてほしいものです。 そうすると、眼科のまわりの(技術的に優れた)眼鏡店からの
患者さんの紹介が増えるということがあり得るのではないでしょうか。

ただし、このことは、患者さんが多くて困っている眼科にとっては、デメリットになるかもしれません。
しかし、眼鏡店へ行った人が、矯正視力が1.0出ないにも関わらず、眼鏡店の人が
「この年齢なら、ま、しかたがないか」と思って眼科受診を薦めず、眼科受診の機会を
みすみす逃がしてしまって、あとで分ったこととして、そのときに必要な治療を受けられなかった
ということが、もしあったとすれば、そういうことを防ぐには「眼鏡処方箋を発行しないかどうかは
別として、とにかく眼科への受診を薦めて、そこへ行ってもらう」のはよいことである、
ということには違いはないわけです。


(3) 眼鏡店のメリット

眼科処方箋持参のお客さんは歓迎だ。自店で測定する手間が省ける。見え方で苦情が来ても
「眼科で相談して下さい」と言えばそれで終わりだし……などという認識の眼鏡店にとっては、
眼科が眼鏡処方をやめても、メリットは何もありません。それどころか手間が増え、
責任回避ができなくなる分、デメリットだけが増えると言えます。

逆に、自店の責任で快適な見え方のメガネをユーザーに提供したいと思っている眼鏡店にとっては、
眼科が眼鏡処方をしなくなれば、眼科処方箋を持ち込んだユーザーから「これは参考としてここで
測って下さい」と言われて困惑することもないし、自分(自店)が決めた度数ではないメガネでの
見え方の苦情を受けて困るということもなくなりますから、眼科は眼鏡処方を眼鏡店に委ねるという
措置は「歓迎」以外の何者でもありません。

また、眼科から指定を受けている眼鏡店でも同様です。そういう店の場合、指定をもらっている
眼科とはうまくやれますが、それ以外の眼鏡処方箋が持ちこまれれば、さきのケースと同様の
「困ったこと」が起りかねません。しかし、眼科が眼鏡処方をやめれば、そういうことで困惑することは
なくなるのです。

 あるいは、眼科へ検眼の手伝いで出向いている眼鏡店でも同じことです。特にそういう場合は、
他店で購入されることが明かなメガネでも眼鏡処方をしなければならないこともあるようですが、
そんなメガネは、うまくいっても自店の売り上げに結びつかないし、ヘタして見え方に苦情が来たら、
購入した店にレンズ換えを依頼しなくてはいけない、もしそこがレンズ無料交換を拒否すれば自分が
弁償しなければいけないということで、気が載らないわけです。

そういうときの処方度は「A.初めはなじみにくいかもしれないけれど、しばらく辛抱すればこれが
絶対によくなります。あなたにはこれがいいです」と薦めたい度数よりも、「B.とにかく初めから
文句が来ない無難な度数」になりがちです。

自店へ来るのが確定している患者さんにならAの処方もできます。もしだめなら自店の負担で
レンズ換えをできますから。しかし、他店へ行く人にはAの処方はしにくくなります。そういう場合、
眼科では処方箋は発行しない、という方針に替えれば、その出向技術者(屈折検査や眼鏡処方
担当者)もたいへんやりやすくなります。

 眼科に出向している眼鏡技術者は、眼鏡を必要とする人、眼鏡を希望する人には「眼の度数や
最高視力は、いま検査しました。ここまでは医療行為です。それで快適なメガネの度数を選ぶのは
医療行為ではありませんから、どこかのメガネ屋さんでやってもらってください。
もし、技術のよい店を紹介してほしいとおっしゃれば紹介します」と言います。
 「はあ、では技術のよい店を紹介してください」
「では私の居る店へどうぞ。店で私が精密に測定してあげましょう」
ということにすればいいのです。

「主張の理由」のところでも述べましたが、眼科の眼鏡処方箋で眼鏡を作って、
それを眼科で検査された場合に、別に何にも問題がないのに「PDが1mm違っています」
「乱視軸が少し違います」というような的はずれな評価をされるという心配がなくなります。

眼科が眼鏡処方をやめるというのは、その気になれば今日からすぐにでも実行できる簡単なことですが、
魔法のような効果があります。

それはすべての眼科と眼鏡店の間に起るほとんどの問題を解決できるマスターキーなのです。
その措置に眼科が踏み切ることにより、眼科と眼鏡店の間のもめる要素がすべて消え去るのです。
それで初めて両者は真に望ましい協力関係に入ることができるのです。

! 誤解のないように!
私たちの主張は、眼科が眼鏡店を指定することや、眼鏡店の人間が眼科へ出向して検査の手伝いを
することを批判したり、排斥したりするものではありません。それぞれに事情があってそのようになさって
おられるのでしょうし、その方式の利点も実際にあることはたしかです。

私たちは、眼鏡店でも眼鏡処方ができる眼に対して眼科が眼鏡処方箋を発行するのは、
考えなおしてほしいと言っているのです。

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