眼科処方箋は誰の味方か
岡本隆博

ここでは、眼科が発行する眼鏡処方箋は
誰の味方になりがちなのか、ということについて
私の考えを述べてみたい。

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通販や安売り店の味方
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メガネ店が、自店を指定する眼科以外の眼科が発行した
眼鏡処方箋を持参の顧客に、どう対応するか、
というのは、個々の店、個々の眼鏡技術者(眼鏡販売員)
によって、あるいは、同じ店でも個々のケースによって
いろいろであろうが、一番多いのは、

「顧客から特に何らかの要請がなければ、(あるいは
要請があっても)その処方箋の度数のままで受注して作る」
というやりかたである。

なぜなら、そうしないで、自店で測定しなおしたら
別の度数で作るほうがよさそう、となった場合には
話がややこしくなるからである。

そして、その場合に「その度数で念のためにテストレンズで
仮枠に組んで見え方を確認してもらう」ということ
さえもしないケースが多いだろう。

なぜなら、それをしてみて、「見え方がヘン」とか
「あまりはっきり見えない」などと言われた場合には
また話がややこしくなるからである。

メガネ一式でウン千円、などという、いわゆる安売り店ほど、
「単純に処方箋どおり」という対応をするはずである。
なぜなら、それが一番手間が省けて経営効率が良いのだから。

また、安売りではない普通のメガネ店の場合には、
その処方箋の発行元が近隣で有力な眼科のもので
あればあるほど「単純に処方箋どおりに作る」だろう。

なぜなら、それは「触らぬ神にたたりなし」であり、
「無難」な方法だからである。

 * ただし、遠近両用などの累進メガネの場合は、処方箋の
  PDのまんま、というのはまず無理であるが、ここでは
  それは別の問題として触れないことにする。

多くのメガネ店は、「処方箋持参の客なら、検眼の手間が
省けて好都合」と思うし、そのメガネでの見え方の
苦情などに対してもドライに割り切っており、もしも
顧客が処方箋で作ったメガネでの見え方の不具合を訴えてきたら、
「眼科で相談してください」と言えばおしまいなのだから
気楽なものであるが、いわゆる安売り店の場合ほど、
そういう割り切り方はハッキリしていると思う。

すなわち、そんな不具合の訴えがあったときに「そうですか、
では当店で、このメガネの度数が良いのかどうかを
検眼してみましょう」などと言って、その顧客の困っていることに
対して、なんとかしてさしあげよう、なんていうことには、
安売りで経営効率第一の店では、まずならないだろう。

なぜなら、そんな店では、見え方で苦情をもってくる
ような人に対する検眼技術に自信はないだろうし、
そんなことに時間をかけたくもないわけである。

あくまでも、「眼科処方箋があった場合には、
メガネ屋はその通りに作る」という、
自店にとっては好都合な「建前」の
とおりにそれを実行するだけである。

そして、昨今の経済情勢では、眼科の処方箋を持った人が
どういう店へ行くかといえば、「この処方箋さえあれば、
メガネ屋の技術の良し悪しには関係ないだろう。
だったら安く買えるメガネ屋がいい」などと思う人も
少なくないだろうから、メガネ一式ウン千円の
店へ行く人も多いと私は想像する。

そうすると、
「眼科の眼鏡処方箋は安売り店の味方」になる
ということをまず、知っていただきたい。

それから、眼科の眼鏡処方箋は、枠とレンズを一式で
販売する通販、あるいは、レンズのみ販売する通販の業者、
すなわち無責任なメガネ販売業者の味方にはなっても、
敵にまわることはないのだが、その理由については、
改めて説明するまでもないだろう。

 参考 ⇒ メガネ通販110番
       http://eyetopia.biz/tuhan/

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良心的な店では
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それに対して、良心的な店ほど、そういうふうな機械的な
対応はできないので、眼鏡処方箋客に対する対応で
困惑することがときどき出てくるのである。

では、上記の対応例とはまったく逆のケースを想定してみる。

検眼の技術レベルの高いメガネ店へ、前からの顧客が来店し、
眼科の発行した眼鏡処方箋を示された。
カルテを見てみると、その人に対して以前にメガネを
調製販売したのは、約3年前であった。

その顧客は、目にものもらいのようなものができて、
ある眼科へ行ったところ、その診療を受けて、
そのときについでに「いまのメガネが合っているか
どうか見てあげます」と言われてメガネの検査や
視力検査をされて、

「少し近視が進んでいるようだから、
処方箋を書いてあげます。この近くのAメガネ店で
メガネを作り変えるといいです。
レンズだけの入れ替えでもかまいません」
ということで処方箋をもらった。

その処方箋にはAメガネ店の名前と地図が印刷されて
あったが、それは無視して、なじみの店へ来られた。

ということで、その処方箋の度数を見てみると、
左右の乱視度数はどちらも1Dを超えるのに、
軸度は見事に(?)左右ともに180度である。

当店のカルテでは、前回の乱視軸は、Rは13度、
Lは170度であった。

おいおいおい、と思う。
たとえば、乱視軸を実際の軸度よりも10度もまわして
矯正すると、乱視度は完全矯正でも、
約3割も残余乱視で出てしまって、矯正効果が
かなり落ちてしまう、なんてことを、眼科で
知っている人がどれだけいるのだろうか。

なお、この場合「乱視軸が斜めのままだと空間視の違和感が
生じやすいので、あえて左右ともに180度にした」
なんていう言い訳は通用しない。
なぜなら前眼鏡ですでに斜乱視矯正になじんでいるからである。

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自店で測定してみると
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それで、顧客の了承を得て自店で測定してみたところ、
案の定、左右ともに180度、は不適切であるとわかった。

そこで、この顧客に、その眼科へ今後も通うのかどうかを
尋ねてみる。

A)
もしも、そのものもらいが治ったので、もうその眼科へ
行く必要は無い、ということなら話は簡単で、当店での
測定により、新たなメガネが必要かどうか、必要なら
どういう度数がよいか、ということを判断し、

それでもし、新しくメガネを作る(レンズを入れ替える)のがよい、
となった場合は、自店で測定した度数で作ればよい。

B)
そうでなく、まだ治療が終わっていなくて、またその眼科へ
いかないといけない、眼科では「できたメガネを
検査する」と言った、といういう状況で、しかも、
いまのメガネでは視力が不十分、となった場合には、
話はやっかいである。

こういう場合、いくつかの方法がある。
自店で測った度数でメガネを作って、

(1)その顧客に眼科で「いまのメガネでもさほど困っていないので
まだ新しいメガネは作っていない」と言ってもらう。

(2)「処方箋をメガネ店に持っていくのを忘れたので、メガネ店で
測ってもらった」と言ってもらう。

(3)「新しいメガネを作ったが、今日はまだ古いメガネを
かけてきました」と言ってもらう。

(4)メガネ店から眼科に調製報告書を送る。あるいは、調製報告書を
顧客に渡して眼科で見せてもらう。

ほかにも、方法はあるかもしれないが、このうちの(4)は、メガネ店の
人間が腹をくくっていないと、なかなかできることではない。

すなわち、そういうことをすると、眼科によっては、
次に眼鏡処方箋を患者さんに渡したときに、
「Bメガネ店には行ってはいけない。
あそこは技術がヘタだから」などと言って、
処方箋のとおりに作らなかったメガネ店に対する
意趣返しをしかねないのである。

そうなると、地域密着型の商売をしているメガネ店にとっては、
困った状態になってしまうから、この(4)の方法は、
広域商圏で商売をしている店で、しかも、
本当に顧客本位にメガネを作るという姿勢がある
店でないと、なかなかできることではないのである。

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指定店の場合だと
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ところが、単独に眼科から指定をもらっている店や、
あるいは、どこかの県のように、組合単位で眼科医会から
指定をもらっている店には、そういう葛藤はまずないだろう。

なぜなら、単純に処方箋どおりに作って、もし具合が悪ければ、
眼科で再処方を受けてもらって、(あるいは、店で測定処方を
して)レンズを入れ直し、そのレンズの費用はメガネ店が負担、
という取り決めどおりのことをすればよいのだから。
簡単なものである。

だから、「指定店を持つ眼科の眼鏡処方箋は、
その指定店の味方」
ということも覚えておいていただきたい。

それで、「もし、入れなおしの度数でも見え方に満足が
できなければ、どうするの?」
と、そのメガネ店の人に尋ねたとしようか。

「うううん……、難しいですね。
だけど、実際のところ、そんなことで来店する人は
ほとんどいませんよ」
「でも、それは実は、お客さんがあきらめてしまって、
店へ苦情を言いにこないだけしかしれませんよ」
「まあ、そう言われてしまうと、そうじゃないとは
断言できませんけど……」
「では、もしもお客さんが『おたくで無料で入れなおして
もらったメガネでもやっぱり見えにくい』と言って来たら、
どうします?」
「そのときには、当店で測って、より良い度数が
あれば、無料で入れ替えてあげます」
「だったら、初めに処方箋をお持ちになったときに、
貴店でも測定をすればよかったのでは?」
「ううん……、でも、それをすると眼科がいやがりますよね」
「なるほど……そうすると、貴店はお客さんよりも
眼科の顔色の方が大事なんですね」
「………」

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どこの眼科の処方箋も歓迎?
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また、指定眼科を持つメガネ店が、自店を指定していない
眼科の処方箋を持ち込まれた場合にはどうなのか、
ということになると、
それは、指定眼科を持たない、いわゆる安売り店ではない
メガネ店がどこかの眼科処方箋を持ち込まれた場合と同じで、
きっぱりとドライに割り切った対応はけっこう難しいものである。

(1)普通は、その処方箋のとおりに作るのであるが、
・顧客が「あの眼科の処方はいまいち納得できないので
 ここで測定してほしい」と言った場合にはどうするか。
・処方箋の通りに作って、見え方で苦情が来た場合あれば、
 それにどう対応するか。
そのヘンは個々の店によって違ってくるだろう。
そういうことでいえば、指定眼科を持つ店でも、それ以外の
眼科の処方箋を持参した御客さんにメガネを作ったときに、
あとで難しい問題が起こる可能性は常にあるわけである。

(2)あるいは、中には、顧客が強く「この処方箋の度数で」
と言わない限りは、自店での測定を薦める店もあるだろう。

とにかく、自分の検眼技術にそこそこの自負心があり
お客さんに対しては自分が納得できるメガネを
提供したいという、ごくマトモな気持ちを持っている
眼鏡技術者であれば、「眼科の眼鏡処方箋」(←それを
めぐって話がややこしくなることが往々にしてある)
を持ってくるお客さんを積極的に自店へ誘引したいとは
思わないはず……だと私は思う。
もちろん、私の店は、どこの眼科からも指定されては
いないし、処方箋客を自店に誘引したいとも思わないから、
自店のHPにも「眼科処方箋歓迎」
などとは書いていないのだが、
世の中にはいろんなメガネ屋もあって、
特定の眼科から指定してもらっているのに、
まだその上に「どの眼科処方箋も取り扱います」
などと、自店の宣伝サイトのトップページに
謳っているメガネ屋も現実にあるのである。

  たとえば ⇒ http://www.ixon.org/

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処方レベルを比較すると
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終わりに、誤解のないように書いておく。

私は、眼科での眼鏡処方レベルと眼鏡店のそれとを
比較した場合に、常に必ず後者が前者を上回ると
言っているわけではない。

(1)
眼鏡処方をする人間が、全知全能の神様でない限り、
そして、被検者がロボットではなくて生きている体と
眼を持つ存在である限り、結果として必ずパーフェクトな
眼鏡処方をできるとは限らないのは当然である。
ただ、検者のレベルにより、眼鏡ユーザーが満足できる
「確率」が違ってくるということだ。

(2)
眼科でも眼鏡店での、その眼鏡処方レベルは
いろいろであるが、眼科の場合、それをうまくやる
ところは、例外的な存在であるが、眼鏡店の場合、
かなり上手なところもけっこうある。
その理由としては、
基本的には、眼科には眼鏡処方を上手になりたいという
モチベーションが生じる理由がほとんどないが、
眼鏡店には、その技術レベルの向上により店の評判を
上げたい、ヘタな処方技術で店の評判を落としたくない
という意欲が湧いてくることがよくあるのである。
(そういう意欲のない店もあるが)

 参照 ⇒ http://www.ggm.jp/ugs/shicho1501041.html
の記事の中の「6.眼科の眼鏡処方能力の問題」

だから、眼科と眼鏡店(いわゆる安売店を除く)の眼鏡処方の
平均レベルを比較すれば、眼鏡店のほうがずっと高いはずである。

たとえば端的な例を挙げれば、眼鏡処方をするときに、
必ず斜位を測ったり、両眼融像視の状態で左右バランスを
取ったりするところが、眼科では日本全国で何箇所あるのだろうか。
(ただし、眼鏡技術者が眼鏡処方を担当している眼科は除いて)

(3)
もしも、ある眼科が「うちの近隣にはヘタなメガネ屋が
多いから、眼科で眼鏡処方をせずに、それをメガネ屋に
まかせるなんてのは、不安である」と
思うのであれば、下記のような方法がある。

 参照 ⇒ http://www.ggm.jp/ugs/iraisho.htm

 すなわち、その患者さんの新しいメガネの度数ではなく
眼の完全矯正値を書いた「眼鏡調製依頼書」を発行すれば、
近視過矯正もまずないだろうし、眼科が新しいメガネでの
見え方の不具合の訴えにつきあう必要もなくなるのである。


* 本稿における私の論は、眼科で調節まひ剤を使って行なう
    眼鏡処方を含むものではありません。

                            (2015.1.22)


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