2.眼鏡処方責任とは
眼科医の責任の元に発行される眼鏡処方箋、という言葉があります。
その責任とはいったいどういう責任でしょうか。

医療行為には「責任」がつきものですが、それは原理的原則的法律的には
「結果責任」ではなく「過程責任」すなわち、加療責任です。

 いくら手を尽くして治療を加えても様態が良くならないことはいくらでもあり、そ
れはまったく医師の責任ではない
わけで、医師は、医療は基本的には結果責任を持つ
必要はない
わけです。(ただし、道義的な責任となると、また別の話で、それは個々
に場合によりいろいろです。法的原理的には責任はなくとも、結果に対して道義的に
責任を感じる場合も多々有るとは思います。眼科医が眼鏡処方を医療と見なして行な
っているのであれば、それは結果責任ではなく加療責任
となります。すなわち、過失
が立証されない限り、医師が適当と認識した治療を加えた(眼鏡の処方をした)その
ことにより、それで責任は果たされたと見なすのが加療責任です。


しかし、眼鏡ユーザーは、普通はそういうふうには思っていません。その処方によって
自分の要求が満たされることを持って眼鏡処方責任が全うされるものだと思っています。
ですから、処方された眼鏡での見え方に不満があって眼鏡ユーザー(患者さん)が眼科
を訪れて再検査、再処方となった場合に、そのレンズの入れ替えの費用負担を眼鏡ユー
ザーがかぶって当然だという意識をユーザーは持っていないのが普通です。

その事実によっても、眼鏡処方は薬剤の処方とは性格的に違うものであることがわかります。
すなわち、眼鏡処方は、薬剤の処方にはない「結果責任」を伴うものであると言えましょう。
(ただし、ここで言う「結果責任」は、道義的なものにとどまらない、原理的及び法的な
ものを指します)



3.レンズ入れ替えの場合
そして、眼科の方でも、もし、眼科が処方して作製した眼鏡での見え方に対して不満
の表明があり、調べた結果、別のレンズに替えた方がよいということになった場合、
処方者が結果責任を感じ、眼鏡ユーザーにレンズ入れ替えのときの費用負担を負わせ
るのは忍びないとして、それを眼科で補償する例も皆無ではないようです。しかし、
それは一般には広く行なわれていません。なぜなら眼鏡店が自店で測定調製販売した
眼鏡の再処方の場合のレンズ代を自店の負担で補償できるのは、その眼鏡の販売によ
りしかるべき利益を得ているからです。しかし眼科では眼科自身が眼鏡を販売して利
益を得ているわけではないので、レンズ代の補償などはなかなかできるものではあり
ません。高いものならレンズだけで10万円近くつきます。

そうかと言って薬の処方のように、あの薬が効かなかったのなら今度はこの薬という
感じで、単にまた処方をするだけで、処方者の気持ちとしても別段平気だ、というこ
とはないはずです。安くないレンズを、たった数日間使っただけで、もうそれが使え
なくなってしまうというのであれば、眼鏡ユーザーに二回目の処方のメガネは無料で
与えたいと思うのが普通の倫理観や経済観念を持った処方者の心理でしょう。

  そこで眼科では、それを解決するために、指定の眼鏡店を作って、極力その店で
自院が処方した眼鏡を購入してもらうように、眼鏡ユーザーに薦めるところがありま
す。その店で作れば製作技術も良いし、再処方のときのレンズ代金は指定店が負担し
てくれるからあなたは助かりますよ、というわけです。その方法には、その目的に応
じた利点もたしかにあるのですが、一方、次のような問題点もあります。


・ユーザーは、指定店以外に自分のいきつけの店がある場合に、
 指定店へは行きたくないと思う。
 でも、医師が言うことはそのとおりにしないといけないのかなと悩む。

・指定店の品揃えが自分の好みに合わない場合がある。

・指定店の場所が自分には行きにくい不便なところにある。

・医療法人という公益法人が、特定の私企業を強く推すには相応の理由が必要だが、
 実は再処方のときに自身の損にならないように指定するというのでは、大義名分が
 立たない。 その眼科の近隣で眼鏡の加工やフィッティングの技術の良さそうなところ
 がその指定店だけしかないのなら、指定することに意義があろうし、大義名分も立つ
 だろうが、現実にそういうケースは少ない。

・ユーザーから紹介を依頼されないのに眼科の方から特定の店を紹介推薦したの
 であれば、何かヘンなウラがあるのではないかと勘ぐるユーザーも出てくる。



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