その眼鏡店の価格の正当性は
(続きその三)


<8> 質問をする


私が眼鏡店の経営をやめて、どこか知らない町に引っ越しをすることになり、
その近隣で技術の確かな店を探すという状況になった場合を想定します。

一口に技術といっても、
眼を測る技術、
レンズを加工する技術、
枠をフィッティングする技術、
お客様に適した商品を推薦できる能力
などがあります。

その中で、
まず加工技術は最近の機械化によって、大差はないと言えます。
(少差はありますが)

フィッティング技術については、
店によって技術者によって、かなりの差はありますが、
それを 事前に知るには、
いま使用中のメガネが掛け心地が悪ければそれを直してもらってみて、
改善するかどうか見てみるという方法があります。

ただし、
いまのメガネの具合が悪くなければ、
これをやってかえって悪くなってしまうといけませんし、
次に述べる測定技術の良い店なら、フィッティングや商品知識もまず大丈夫でしょうから、
ここでは測定技術について、そのレベルを知る方法を述べます。

私の場合なら、検査室(検査コーナー)で設備や小道具類などをみれば、
大体その水準はわかりますが、一般のかたではそれは無理ですし、
検査室へ入りにくいことも多いでしょう。

それで、
その眼鏡店の中の、眼を測定する係の人に次のような質問をすることにします。

「私は私の目を測ってもらうかたには技術レベルの高い人を望みます。
それで、私の目を測って くださるかたに、少し質問をさせてほしいのですがいいでしょうか」


と言えば、たいていは「はい、 どうぞ」と言ってくれるでしょう。

それでもし、質問されることをいやがるようでしたら、
そんな店とは「さようなら」です。




【質問1】
眼鏡処方をなさる場合に、
初めてのお客さんなら、PDを測って、眼の度数はまず自動式の器械で測ってみられるでしょうが、
それから実際に使う眼鏡の度数を決める作業にかかるまでには、
何かを求めないといけないのですが、それはナンでしょうか。

こういう質問をすると相手は「これはタダものではないな」と思って身構えるかもしれません。
でも別にかまいません。こちらは「お客様」なのですから。自分の測定技術に自信のある技術者なら、いやがらずに、むしろ喜んで答えてくれるでしょう。

それで、この質問に対して、次のような答が返ってくれば、一応OKとします。

「そりゃ、完全矯正度数(完全矯正値)を測る(見る・出す)ことですよ」

「眼の屈折度数と最高視力を出す(見る)ことです」

「眼のホントの度(実度数)を測る(出す・見る)ことです」


 一般のかたは、よく「度を強くしすぎてはいけない」とおっしゃるのですが、
何をもって「強い」 とするのか、その基準はハッキリしないわけです。

「見えすぎた場合には、強い度にしすぎているから」
というのは正確ではありませんし、
「眼が痛くなったり、疲れたりするのは度が強すぎるからだ」
というのも必ずしも妥当ではありません。

ところが眼鏡測定の専門知識がある人ならば
「そういう『強い弱い』の基準は完全矯正値だ」
とスンナリと言えます。

逆に言うと、「完全矯正」とか「屈折度数」、
あるいは一般人にわかりやすく表現するために
「眼の実度数」とか「眼のホントの度数」とか、
そういう表現をできない人は専門家ではないといえます。

ただ、この質問に対して、
ひょっとすると質問の意図が理解できずに、答がでなかなか出なかった り、
あるいは「両眼視機能」だと「眼位」だとか予期せぬことを言う人もいるかもしれません。

ですから、
この質問で期待すべき答が返ってこなければ、
次のように助け船を出してみるのも いいでしょう。

「こちらでは、眼鏡度数の決定の前に、完全矯正値を測りますか」

それに対して
「あ、そういうことですか。それなら当然測りますよ」
というふうな答が返ってくれば、OKです。

逆に、そこまで言われても、
まだそれが何を意味するかよく分からない感じだったら、
私はも うそこの店とはおさらばします。

この質問に対して合格なら、次の2番目の質問をしてみます。

【質問2】
貴店では、お客さんの眼を貴店で測定してメガネを作った場合に、
作ったメガネの度数だけでなく、完全矯正度数とその視力も、記録として残しておられますか。

眼鏡技術者は眼科医ではありませんから、
眼や体の病気のことを医師のように察知する専門的な能力があるわけではありませんし、
そのための検査設備を備えているわけでもありません。
ですから当然、病気を見逃してはいけないという責任を法的に持っているわけではありません。

しかし、職業倫理として、
何か疑問を感じたら眼科での受診をお勧めするのは当然だと言えます。

その場合に、
もし、そのお客さんが自店に以前から来ておられるかたであれば、
眼科への紹介状 に参考に添付するデータとしては、
調製した眼鏡の度数よりも、眼の屈折度数とその視力(完全矯 正値)の方が重要なのです。

もかかわらず、それを記録していないということは、
端的に言えばお客さんの目のことを大事なものに思ってはいないのではないか、と私には思えるのです。

この記録を残していない店の技術者は

「私の近視は、前よりもどのくらい進みました?」

と聞かれた場合に、
以前の処方度数と今回の処方度数の差を答えるわけですが、
実はそれでは正確な答に なっていません。

なぜなら、
眼のホントの度から、どれくらい弱めに作るのかということは常に同じではないからです。

ただ、実際のところ、
この記録を残している店はごく少数派ですので、
あなたからこの質問を受けた場合に、

「そこまでの記録は残してはいませんが、完全矯正値の測定はちゃんとやっています。
それを基にして実際のメガネの度数を決めます」

というように答える人なら、まだ脈があります。
この質問に対して自信をもって「はい、残しています」と答えたら、その店はまず大丈夫と言えます。
ただ、その答が

「何となくウソのような気も……」

と思われたならば、

「じゃ、カルテを見せてくれますか?」

と聞いてみましょう。それに対して

「信用できないのなら、もういいですよ」

などと言うようなら「さよなら」をしたほうがよいです。
カルテを見せて

「これが完全矯正値で、これが調製度数です」

と説明してくれるようならOK です。
そして、この2の質問に対して合格でも不合格でも、次の質問をしてみます。

【質問3】
あなたの眼鏡処方では、
上下(じょうげ)プリズムの処方率は大体どのくらいですか。
ただし累進レンズのプリズムシニングは除外します。

これに対して、「0%」すなわち「なし」という答えなら「バツ」ですが、
1割(10%)以下の答を言えば合格です。
それよりやや多くても、まあいいとしましょう。
しかし、次のような答なら、私ならその店ではメガネは作ってもらいたいとは思いません。

「……?……」(上下プリズムがナンだかわからないので答えられない)

「上下プリズムなんて、入れなくても大丈夫ですよ」


この考えは間違いです。上下プリズムなしではメガネをかけられない人がいるのです。

(質問にマトモに答えずに)「プリズムなんてヘタに入れるとかえって見にくいです」

この答も妥当ではありません。
必要な人には必要量のプリズムを入れるのが正解ですから。
この質問においても「合格」の店は少ないと思いますが、
これに合格なら、その店の技術レベルは OKと見なしていいでしょう。

以上の3つの質問にすべてOKとなる店(技術者)は、多く見ても全体の1割未満でしょう。
ですから、たまたまそういう店(人)に行き当たるかどうかはわかりません。
3つ全部にOKでなくとも、質問1と2あるいは、1と3にOKなら上出来です。
それもダメでも、せめて1だけは合格の店で、自分のメガネを作りたいと、私は思います。
では、近隣の店はみなまったくダメだったとしたら、どうすればいいでしょうか。

うーん、これは困りました。何店か回ってみて、
どの店でも3つの質問に不合格、という可能性もあるのです。

そんなときは技術に関しては、運を天に任すしかしかたがないですね。
そして、せめて、このコーナーの別ページで述べる
 《親切な眼鏡店のフィッティング》 
でもって親切な店を選ばれるのがよいかと思います。

ただ、この3つの質問に全部バツの店でも、
必ずヘンなメガネができあがってしまうわけではありません。

また、この3つの質問にすべて合格する店(人)なら、
絶対に大丈夫だとも言えないの です。

ただ、成功率
(あなたが見えかたや掛け心地に満足できるメガネができる確率)
が違うということ です。

どんな名医でも病気や怪我が治らないこともあるし、
どんな藪医者でも治る人は治る、というようなものです。

でも、能力的にはたしかに違うのですから、
藪医者よりも名医にかかりたいものですね。

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