【不同視矯正眼鏡に対する眼科医の見解】




では、これから、メガネで不同視を矯正する話に入ります。


HOYAのビジョンケアQ&A
 http://www.vc.hoya.co.jp/qa/make_ans_4.html(2006.5.26現在)

に、次のような質疑応答があります。



(引用はじめ)
質問 「左右の視力がかなり違うんですが、メガネとコンタクトのどちらがいいの?」(引用おわり)



これに対して、
日本大学医学部板橋病院眼科の名誉教授、
北野周作先生が、
次のように回答をしておられます。



(引用はじめ)
片眼の視力が他眼の視力とかなり異なる場合を、不同視といいます。
不同視の方で、特に左右の視力が著しく異なる方には、
コンタクトレンズがおすすめです。
左右の視力がかなり異なる不同視の方がメガネをかけると、
左右の網膜に映る像の大きさが異なってしまうため、
そのメガネを使いこなせないということがあります。
メガネのレンズは目から約1.2cm離れているため、
外から入った光が目に届くまでの間に像が縮小(拡大)されてしまうからです。
これに対し、コンタクトレンズは目の上に直接乗せますので、
網膜上の像の縮小(拡大)はほとんど起こりません。
従って、不同視の方でも網膜に映る像が
左右の目でちぐはぐになるということはほとんどなく、
メガネよりも適しているというわけです。





また、メガネレンズの場合はプリズム作用から、
横目を使う際、レンズの中心から離れたところでものを見ると
二重に見える(複視)ことがあり、
不同視の方では両眼視ができなくなります。
この場合も、コンタクトレンズなら視線とレンズが一緒に動くので、
複視が起こることはありません。
不同視の方にはコンタクトレンズが有利といえます。(引用おわり)



この回答の内容は、
眼科医としては一般的なもので、
たいていの眼科医師は、
不同視というテーマでは概略このような解説をします。

そして、私たちがこれを読むと、
北野先生は、ほとんどの眼科医師がそうであるように、
眼鏡処方に関しては教科書的な知識しかなくて、
その実際にはあまりお詳しくないかたであるとわかります。

それと、これは一般向けの解説だから、
不同視というものの説明(定義?)
をこういうふうに書かれたのでしょうが、
これではいささかオソマツです。
左右各眼鏡の視力がたとえ異なっても、
屈折度数(近視や遠視の程度)が
あまり違っていなければ「不同視」とは呼びません。
左右の屈折度数の異なるものを不同視と言う、
というのが眼科学の常識です。

 そして、臨床の場では、
左右差が1D以内であれば、
普通は「不同視」とは言いませんし、
1Dを越えるころからぼつぼつ「不同視」と呼ぶ場合も出てきて、
左右で2D以上の差があれば、
強度不同視として問題にする必要が出てくる、
というところでしょう。

それで、実際のところ、2D以上の差があれば、
メガネで矯正することは無理なのでしょうか。
あるいは、逆に、左右差が2D未満の不同視なら、
それを両眼共に完全矯正または
同程度の低矯正にしたメガネは、
問題なく使えるのでしょうか。

そのどちらの疑問に対しても、
「ノー」と言っておきます。



メガネでの矯正においては、
たしかに左右の度数差は少ない方がなじみやすいのですが、
しかし、左右差が0.75Dしかなくとも疲れるメガネになることもあれば、
左右差が3Dでも4Dでも使えるメガネになることもあるのです。
それが本当のところなのです。
こういうことは眼鏡処方で長年苦労した人なら、たいていは知っています。

不同視のメガネが実際に使えるかどうかということは、
そのメガネの左右の度数差だけで、
判断できるのではないのです。
では何で判断するのかと言いますと、
その一番大きな要素は、
それ以前はどうであったか、
ということによるのです。


たとえば、分かりやすい例で言いますと、
これまではメガネはまったく使っていなかったという場合であれば
右がマイナス0.50、左がマイナス1.50という、左右差1Dのメガネは、
かなりしんどいメガネになりますが、
逆に、これまで右が−0.50で左が−1.75のメガネを使えていた人なら、
度数の強かった方の左が弱くなったのですから、
今度はしんどくも何ともないわけです。

また、右が−3Dで左が−5.25Dで使えていたのなら、
今度のメガネを右はそのままで左を5.75Dにしても、平気で使える、
ということもあります。
この場合なら、左右差2.75DでもOKなわけです。

要するに、いままでと今度とどれだけ変わるのか、
というのが最大のキーポイントなのです。


それから、不同視メガネが馴染みにくい理由として
北野先生は二つの理由を挙げておられますが、
これも私に言わせれば、教科書的なものすぎません。

不同視矯正眼鏡によって、
たしかに不等像視が生じる場合もありますが、
生じない場合もあります。
その理由は、その眼が感じる像の大きさは
眼の屈折度数だけで決まるものではなく、
眼軸(眼の奥行き)の長さや
その他のいろんな要素が複合して、
脳が感じる眼底像の大きさが決まるからです。
それは、偏光性を持った不等像検査視標を見れば、
よくわかります。(下図参照)





北野先生は、
実際にそういう検査を不同視の人になさったことがあるのでしょうか?

そして、たとえ不同視矯正眼鏡によって不等像視が起こっていたとしても、
そのままの度数でメガネとして使用しても
特に違和感ねく使用できていることも決して少なくないのです。

また、もうひとつの問題点であるプリズム誤差は、
たしかにレンズの光学中心を
はずれたところを視線を通して見れば生じるのですが、
それが実際に問題となるのは
水平方向におけるプリズム誤差ではなく
垂直方向におけるプリズム誤差なのです。

そんなことは優秀な眼鏡技術者にとっては
当たり前の知識であり認識なのですが、
眼科関係者の多くは、
そういう当たり前のこともことも知りません。

そしていつまでたっても、
眼科の専門書を孫引きして
水平方向のプリズム誤差のことだけ言うのです。
しかし、実際のところ、水平方向に関しては、
垂直方向とは違って融像に融通が利くので、
プリズム誤差はほとんど問題にはならないのです。
ここに、
肝心の上下方向でのプリズム誤差による複視
についての言及がないのが、
不思議ですね。



ここに引用した例以外でも、
眼科の中では比較的屈折に詳しい
大学教授の書いた本にも、
水平方向のプリズム誤差のことが
図入りで書いてあります。
眼科のえらい先生は、
いかに眼鏡矯正の実際にはうとい人たちなのか、
というよくわかる実例です。




それと、北野先生が書かれた、
「メガネのレンズは眼から約1.2cm離れている」
というのも、少し違います。

日本での基準はたしかに12mmなのですが、
アメリカでは13.75mmなのです。

そして実際のところは、
何ミリがベストなのかというのは、
ケースバイケースで一概には言えないのです。

でも、この北野先生はまだマシです。

中には「12mmでないといけない」と
教科書どおりのことを強制するようにおっしゃる(書かれる)
眼科の先生もおられるのですから。
 その先生に私は言いたいです。

「そうですか、では先生ご自身がかけておられるメガネは、
レンズの裏面の中心(後側頂点)と角膜頂点の距離は
きっちりと12mmになっているのですね。
では、それはどうやって計測をなさいましたのですか?」

と。





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